「シャワーくらい浴びてもいいでしょ?」
「しょうがない。シャワーだけだぞ。一休憩は無しだ」
「やった!」
私はウキウキしてドアを開けた。本当にシャワーを浴びたかったから。
 急いでシャワーを浴び終えると、スッキリした気持ちで居間と寝室を兼ねた部屋に入った。
(わ!なんか気持ちいいかも!)
ロマンスに言われしぶしぶ部屋を片付けたのだが、改めて見るとスッキリしていて気持ち良かった。心も体も爽快だった。
「よし、来たな。さあ、やるぞ」
そんな部屋の真ん中に置いたテーブルの前に座ったロマンスは、私を見るなりガッツポーズした。汗を流してスッキリした私は『休みたい』と思っていたのも忘れ、素直に彼女の真向かいに座った。
 しかしすぐに大きな疑問を抱いた。テーブルの上には短大の講義で使っているルーズリーフ一枚と、シャープペンシル、消しゴムが乗っている。『修行する』とロマンスは言ったが、何の修行をするのかまったく想像がつかなかった。
「このテーブルの上に乗っているもの、修行に使うんですよね?」
「そうだ、不満か?」
「いえ、そうじゃなくて……修行と言えば昨日みたいに部屋を片付けるとか、滝に打たれるとか、座禅と組んで竹でできたヘラみたいなので肩をベシッと叩かれるとか、こうアクティブなイメージが強かったので。突然紙とシャープペンシルが出て来たから何をするのかわからなくて、ビックリしたんです」
「フム、なるほど」
「で、何をするんですか?モテ子になるための十か条とか教えてくれるんですか?」
キラーン!私の目は輝いた。そう言うのを待っていたからだ。
「違う」
ギラーン!ロマンスの目は鋭く輝いた。同時に、バシッと音を立ててルーズリーフを叩いた。ブルルン!と彼女の胸が震えた。あまりの迫力に、私はのけぞった。
「この紙に、ビッシリと、ミッチリと、すんぶんの隙間もなく」
「この紙に、ビッシリと、ミッチリと、すんぶんの隙間もなく?」
「『私は男運が良い』と一万回書け」
「一万回!」
「たまには『静』の修行もいいだろう。疲れているんだし」
「はあ……」
有無を言わさぬ雰囲気をかもし出すロマンスに反撃できず、私は『わかりました』とうなずきシャープペンシルを持った。
(こんなんで、本当にモテ子になれるのかなぁ……)
大いなる不安を抱きながら。