予定通り授業を終えると一度マンションへ帰り、バイトがある午後六時まで洗濯をしながら掃除の続きをする事にした。ロマンスもいて、ベッドの上に座り漫画の本を読んでいた。
(さて、今回はどこを掃除しようかな?洗濯に四十分はかかるから、その間にできる事じゃないと、中途半端になっちゃうもんな。そんなやり方したら、ロマンスに文句言われそう。終わりそうな事をやらなきゃ)
「良い事言うねぇ。『終わりそうな事をやらなきゃ』なんて」
「ちょっと、聞かないでくださいよ!」
「だってぇー、聞こえちゃうんだもん!」
「耳栓でもしておいてくださいよっ!本当、恥ずかしいんだから!」
「耳栓なんか、クソも役にたたねーよ。そんなもん、ぜーんぶ通って聞こえちまうんだから」
「イヤです!聞かないでったら聞かないでください!」
「ムリだもーん!お主の考え事したり妄想している声は、みーんな聞こえちゃうんだもーん!」
「だったら、せめて聞こえないふりしてくださいよ!」
「だったらせめて、聞こえないふりしたくなるような事言ってくれよ!」
「今言ったじゃないですか!」
「そうだっけー?」
「なにスカしてんですか!あーもう、マジムカツク!」
「こわーい!そんなに怒ると、男が逃げちゃうぞぉー」
「逃げませんっ!」
すると、まるで私の怒りをあおるかのように、テーブルの上に置いた携帯電話の着信メロディーが鳴った。私はイライラが収まらなかったので、無視してロマンスをニラみつけた。
「誰も『でんわぁー』って言ってるぞ」
「そんなオヤジギャグ、ちっとも通用しませんから」
「ほら、ずーっと音楽鳴ってるぞ。よっぽど話す事があるんじゃないのか?」
「……しょうがない、出るか」
ロマンスの言う事はもっともだと思い、電話を手に取ると、二つ折になった本体の真ん中にあるサブディスプレイを見た。
(げっ、お母さんからだ!もう、掃除しなきゃならないのに何の用よ!)
ますますイライラを募らせ、通話ボタンを押した。