「だったら、ガンガン飲むしかねぇな。毎日たくさんの『恋の願いを叶えたい人間』の願いを叶えてやっているのに、テレビに映っている女は『神様なんていない、もしかしたらサドだ!』ってほざいてやがる。悲しすぎて、これ以上見たくねぇ!」
「あのような者は放っておけばよいのです。身から出たサビに苦しんでいるだけですから」
「だいたい、その女だけじゃねぇ。日本全国、いや世界中こんな調子じゃねぇか。神社に来るたび、自分の願い事を言うばかり。『ありがとう』の一言さえない」
「ええ、そうですね」
「本当、ここ最近むなしくてしょうがない。やる気もなくなってきた」
「お心、お察しいたします」
「情報社会が発達しすぎると、アタイ達みたいな存在の者をうやまう気持ちは無くなるのだろうな。もしうやまう奴がいたら変り者扱い。ひでぇもんだ」
「そうですね、困ったものです」
女は眉間にシワを寄せたまま再びテレビを見た。画面の中では、いまだ私が号泣していた。泣き止む気配はない。すると今井は、なさけない顔になった。
「このお嬢さん、いつまで泣き続けるつもりなんでしょうねぇ?」
「心配するな。あと三十分もしたら泣き止む。今井が同情することはない。女ってのは元来、強い生き物だ。ある程度泣けばすっきりして、また次の恋を探しに行くさ」
「そうなんでしょうかねぇ?」
「おい今井、お前もそろそろ学習しろ。こんな娘達を一年間ずーっと!見てきたんだろ。こういう反応をする奴に、たいして違いはない」
「たしかにそう言われてみれば、そうなんですけどねぇ……」
「ほら、テレビを消しな。これ以上、アタイにヤケ酒飲んで欲しくないんだろ?だったら悪の根源をたたっ切らなきゃダメだ。日本を作ったイザナギさんやイザナミさんだって、許してくれるさ」
「はあ……」
「ああ、そうかい。お前が消さねぇなら、アタイが消すよ。そこどけな!」
女は今井を手でシッシッと追い払うと、テレビのスイッチを消そうとした。
 テレビの画面には、大声で泣きわめく私が写っていた。その姿はひどくみすぼらしかった。もちろん、私は知らない。
「お待ちください!」
今井は慌ててテレビを抱きしめ、女に背を向けた。