ダラダラと『三階』の表示を確認し階段を上りきると、右手に延びる廊下を歩いた。決して新しいとは言えないが、使い勝手の良い、五十から百人程度の学生が学べるサイズの教室が廊下を挟んでそろっていた。
 階段から歩いて一分、三つ目の教室を本日一講目で使うことになっていた。中に入ると、すでに九十人以上の生徒が来ていた。選択必修科目なので、一年生の大半は学ばなければならない。九十と言う数字は妥当だった。
 縦長の教室を半分にするよう置かれた机と椅子にぶつからないよう真ん中の通路を歩きながら、仲の良い友達を探した。
「おはよー知佳。ここ、ここ!」
すると、後ろの席に友達を見つけた。林マアコ、井上ユカ、田辺アミの三人だ。彼女達とは、入学してすぐ仲良くなった。サークルに入っていない私は学校にいる間、この三人といつも行動を共にしていた。
「おはよう、今日良い席取れたね」
「でしょ!ユカ、気合い入れて早めに来て取ったの。がんばったぁー」
「早く来たのって、絶対席取りのためじゃないでしょ」
「そんな事ないよぉ、すっごく勉強したかったの」
「だって就職したくなくて短大入ったんでしょ?勉強のために早く学校来るとは思えない」
「やだ、バレバレ?」
マアコ、ユカ、アミはゲラゲラと大きな声で笑った。他の学生が『うるさい』と言う目で見ていたが気にしない。
「で、何で早く来たの?」
「彼氏がぁー、朝からぁー」
「朝から?」
「キスしたいって言ったの!」
「えー何サカってんのよっ!」
再びゲラゲラと大声で笑った。するともっと多くの学生たちがうんざりした目で見た。もちろんそれでも三人は気にしない。私も気にしない。いつもの事だから痛い視線も慣れっこだ。
「そうでしょー?でもユカ、タカシ君に永久就職する予定だから、それくらいのお願い聞いてあげないとね」
「将来の社長だもんね。逃げないようにガッチリつかんでおかなくちゃ」