痛かった、ふつうに。それでも私は信じられず、しばらくの間目をつぶり起こった事を何度も思い返した。
ロマンスのために家へ帰ろうとしていた事、調べ物をしなければならなかった事は、全て忘れた。一講目に講義があり、どうにかして出なければならないと思い出しただけだった。
 時、同じ頃。ロマンスはニヤニヤしながら私の映像が映し出されたテレビを見ていた。それも高い空の上で。ロマンスは私が家を出て間もなく、空の上にある自宅へ帰っていたのだ。神様だから飛行機でも届かない高い場所も、瞬きする時間でたどり着けた。
「ロマンス様、緑茶でございます」
「おお、ありがとう。いつもすまんな」
「いいえ。それよい、お疲れではございませんか?」
「ああ、とても元気だよ。たまには人間界もいいもんだ。映像で見ていた物を実際にこの目で見ると、大きかったり小さかったり、貧相だったり豪華だったり、『へぇー』と思えて楽しい」
「それはようございました。人間界は心のきれいな者より私利私欲にまみれた者の方が多うございます。汚れた想念に毒され弱ってしまいやしないかと心配しておりましたが、安心いたしました」
「ありがとう、心配してくれて」
「部下として当然です。これからもご自愛忘れず日々をお過ごしください」
「ああ、そうするよ」
ロマンスは再びテレビを見た。すると私はどうにか復活し、一講目の講義を受けるため三階へ移動していた。
「知佳さん、お元気になられたようですね」
「女はタフだからな。なんだかんだ言って、すぐ立ち直るのさ」
「そうですね。見かけと違って男性は繊細です。一度傷つくとなかなか立ち直れません」
「多くの女はそこんところがよくわかっていない。だからモテ子になれない」
「さようでございますね。これだけ物質主義社会だと、湾曲された情報を目にする機会の方が多いので、ますます遠ざかります」
「少女マンガに出てくる男は魅力的だからな」
「そういえば、ロマンス様。知佳様は提示された課題をまだ解いていらっしゃいませんね。あれだけの事があった後ですから、思い出すのも難しいと思いますが……」