その夜私と裕矢は、裕矢の仕事が終わるのを待って家に帰り、さっそくお父さんとお母さんにお付き合いする事を告げた。裕矢がケガをした事で二人は動揺したが、晴れやかな私達の顔を見て大事に至らなかったのだと悟り、多くを質問せず交際を快く許してくれた。
 報告を終えて十分後、翔太が帰って来た。ハタ目にもわかるほど憔悴しきっていて、お母さんの隣にグッタリして腰を下ろした。
「翔太、エリカちゃんの具合はどうだ?」
「今は落ち着いているよ。父さんの対応が早かったから、大事に至らなかったのはもちろん、後遺症もない」
「そうか、それはよかった。エリカちゃんのお父さんやお母さんには、連絡したか?」
「うん。午後四時ごろ病院へ来た」
「大変だったな」
「俺もエリカをちゃんと見ていなかったからね。激しく責められたけど、しょうがないよ」
「翔太、エリカちゃんに何かあったのか?」
「うん」
翔太は一度視線を外し考え込んだ。顔を上げれば、深刻な表情で言った。
「今日の朝、睡眠薬を飲んで手首を切って、自殺しようとしたんだ」
「ええっ!」
私と裕矢は、驚いて顔を見合わせた。お父さんとお母さんは『大変だったわね』とうなずいた。
「今日の朝、エリカが家に来たろ。そこでエリカは『心を入れ替えるからやり直そう』って言ったんだけど、俺、本当にアイツの態度にウンザリしていてさ。マジ、恋人やめようと思ったんだ。そうしたら、帰って一時間くらいたったら、『今までありがとう。私は死ぬからこれから自由に生きて』って、電話が来たんだ」
「そうだったんだ。気づかなくてゴメンな」
「いいや。エリカがすぐ思いつめる性格だって言うのを忘れなければ、もし別れるにしても、もう少し言葉を選んだと思うんだ。こうなった原因は、俺にもある」
翔太は父を見た。
「でも、父さんが一緒に行ってくれて本当に助かったよ。俺一人だったら動揺で何も考えられなくて、もっと事が深刻になっていたかもしれない」