十六歳の時初めて付き合った人は、同じクラスの男子だった。いつも一緒にいるぶんよく知っているつもりだったが、私が見ていたのは彼のほんの一部分にすぎなかった。
 彼氏ができた優越感に浸り『お前が好きだ、付き合ってくれ』の言葉にダマされている事に気づかなかった。彼の本当の姿は『暴力男』だった。
 彼は人目が無くなり、少しでも私が気に食わない事を言うと、殴ったり蹴ったりした。私は恐ろしくて泣きながら『ヤメテ!』と叫んだ。もちろん彼はやめてくれず、またたくまに体はあざだらけになった。しかし彼はずる賢く顔は殴らなかったので、周りのみんなは私がそんなひどい目に遭っていると気づかなかった。
 親には言えなかった。私の親は自分の意見を押し付けることが教育だと思っているので、『助けて!』の言葉さえ聞いてもらえないと思った。もし言ったとしても『おまえの眼力がなかったんだ、バカ娘』と言われ、もっと傷ついて終わりそうだった。
 でも一番いけなかったのは、動けなくなった私を見て彼が『ごめん、俺が悪かった』と謝る姿に、つい許してしまった事。私がガマンし暖かくせっしてあげれば、いつか治ると思ったのだ。
 それは、まったくの思い違いなのに。
 彼と別れたのは、付き合って三か月目だった。
『好きな子がいるんだ。ごめん、別れよう』
そう言って彼は私の元を去った。本当なら胸が張り裂けるほど辛い瞬間だろうが、暴力から解放された喜びにホッとした。涙した。
 そしてこの恋は、今後の私の恋愛に大きな影を落とした。
 男性を見れば、『みんな少しでも気に食わない事があれば、殴るし、蹴るし、髪をつかんで引きずり回す』と思っていた。恐ろしかった。外道な男としか付き合えなかった自分は『男運が悪い』とも思った。別れたのに、毎日地獄だった。
 そして一年後、彼氏はできた。アルバイトしていたコンビニの社員で、二歳年上の男性だった。
 彼は前の彼氏と違い、人目が無くなっても暴力を振るわず優しかった。私の話もよく聞いてくれた。休みの日を合わせたくさんデートをしたが、いつも同じように接してくれた。本当に幸せだった。彼となら誠実な愛を育めると思った。
-ダメな私でも、愛してくれる素敵な人はいるんだと思った。