「『私は男運が良い』って一万回書いたら、次は『私は恋愛相談もできる』って書けば良い。毎日毎日地道に頑張るんだ。疑わずにな。そうすれば必ず自信がつく」
「はい」
ロマンスは小さく左手の指をパチンとならした。すると私の手に書きかけの『私は男運が良い』のルーズリーフとペンケースが現れた。
「ではまず、こちらから終わらそうか」
「はい」
「もう少しで終わりそうだが、今日は無理のない程度にやるんだぞ」
「はい」
私はベッドから降りると、鏡台を机替わりにして続きを書いた。もう深夜を回っているのに、全く眠くない。色々衝撃的な事がありすぎてリラックスできないのかもしれない。
(これはいいヒマつぶしになるかも。自宅にいた時やっていたことだから、急にいつものペースを取り戻すかもしれない。そうしたらリラックスできるかもしれない。そうしたら、よく眠れるかもしれない)
案の定、二十回くらい書いたらアクビが出た。三十回でまたアクビが出て、四十回書いたら急に眠くなった。しかし残り五十回。五十回でこの地味で、しかし効果のある修行は終わる。私は書く方を選んだ。
 そして二十分後、とうとう一万回書いた。
(やったーっ!できたーっ!超嬉しい!さ、寝よう!)
ベッドヘッドのそばに置かれた丸テーブルの上に乗った時計を見れば、すでに午前一時を回っていた。午前六時半には置きたいと思っていたので、目覚ましをセットすると照明を暗くし、ベッドに入った。
 布団も枕もフカフカで、ものすごく気持ちが良かった。ハタと室内を見回せば、すでにロマンスの姿はなく、空の上へ帰ったらしかった。
 私は目をつぶると、なんとなく思った。
(今日は色々あったな。良い事も、イヤな事も。それでも今すごく幸せだと思うのは、やっぱり裕矢さんのおかげ?それともロマンスのおかげ?それともそれとも、裕矢さんのお父さんのおかげ?とにかく、いろんな人にお世話になったな。私、けっこう愛されているなぁ……)
思って間もなく強烈な眠気が襲ってきて、そのまま眠りについた。今晩は夢も見ず、ひたすら眠り続けた。