移動の車の中、またシウの曲を聴いた。衝撃的な事件の後聴くと、よりいっそう歌詞が心にしみた。すっかり酔いしれた。
 そのため私は、大事な事を裕矢に確認していなかった。気が付いた時には、手遅れだった。
「着いたよ、ここが俺の家」
「えっ?」
閑静な住宅地の真ん中に建つ、わりと大きな一軒家。裕矢はその家の前で車を止め、車のキーについているリモコンで車庫のシャッターを開けた。
「あの、裕矢さんは一人暮らしじゃないんですか?」
「ああ。家族と一緒に住んでいるよ」
「家族?お父さんもお母さんも一緒に住んでいるんですか?」
「もちろん。翔太も住んでいるよ」
「翔太君も!」
予想外の展開に声が裏返った。よもや翔太と一つ屋根の下で寝ることになるとは思っていなかった。
 しかし私の動揺をよそに、裕矢はテキパキと車庫に車を入れると降りた。隣には白色で高そうな車が一台止まっていた。
(裕矢さんのお父さんって、お医者さんだっけ……いっぱい稼いでいるんだろうな)
ふとよみがえる記憶。以前会ったのは図書館司書のセミナーのお手伝いをしている時。
(優しそうな人だったけど、こんな夜中に来て怒らないかな?)
不安を覚え車から降りられないでいると、裕矢がドアを開けた。
「さ、降りて」
「あの……ここまで来てなんなんですけど、お父さんとお母さん、怒らないんですか?」
「怒る?」
「はい。だって初対面なのにこんな夜中に来るなんて。失礼じゃないですか?」
「大丈夫。俺に考えがあるんだ」
「考え?」
「うん。だから心配いらない。さ、降りて」
「はあ……」
私は車を降りると、裕矢の後をついて庭へ入った。家の電気は全て消えている。みんな寝ているようだ。
 庭はかなり広かった。私も実家は一軒家だが、これほど広くないし、家も大きくない。だんだん気おくれしてきた。
「さ、入って」