裕矢から熱い告白をされた一件は、あっという間に学校中に広まった。在籍している学生は全学部合わせて六千人以上いるが、二時間後にはほぼ九割の学生に広まっていた。見物人が引いた後だったのに、登校途中の学生がソーシャルネットワークサービスなどを利用して言いふらしたようだ。おかげで私は、講義を受けるため教室を移動するたび、注目の的だった。絶交したアミ、ユカ、マアコまで好奇のまなざしで見ていた。
「いやいや、人気者は辛いですな」
「本当、学食でも注目の的だもの」
「もう、やめてよ!思い出すのも恥ずかしいんだから!」
昼、なんとか講義を終え灯達と第二食堂へ来ると、見る人見る人『あの子が今朝、告白されていた子よ』、『朝から、熱いねー』、『私もあんなふに、告白されてみたーい!』とコメントをささやかれた。予想以上の反響に戸惑うばかりだった。
 人の波に乗り食券を買い希望の食べ物と引き換えると、席を探してホールへ出た。ホールの中はすでに多くの学生や先生達が座っていて、空いている席を探すのは難しそうだった。
「講義十分も延びちゃったからなぁ。さすがに混んでいるね」
「四人で座るのは難しいかも。バラバラに座ろうか」
「そうだね。次の民法は後ろの席に座りたいから、早めに教室へ行かないと席が埋まっちゃうもんね」
「午後一番の講義で民法って、マジ、キツいよね。小難しい内容のうえ、教授が穏やかーな口調で語るから、すぐ眠くなっちゃうんだよね」
「そうそう。たまらず『もっと元気にしゃべって先生!』って言ったら、『すぐおなかがすいて燃費悪いから、このままいきます』だって!」
「教授のしゃべりもエコロジー路線なのね」
「いやいや、教授はアンチ・エコロジーでいきましょうよ。学生のためだもの」
「ま、今すぐに変えられなさそうだから、今日も後ろの席狙って早くご飯食べよ!」
私たちは半分笑いながら、空いている席を探して移動した。
 すると携帯電話の着信メロディーが鳴った。そばにあるテーブルで一席空いているところを見つけたので、席に座っている人に断ってトレーを乗せると、慌ててショートパンツの左ポケットから携帯電話を取り出した。サブディスプレイを見れば、『澤田裕矢』の名前が表示されていた。