「そうそう。おなかが減っている今は、いっきに食べちゃった」
「ウフフ。私達、大食いの人もびっくりだよね」
「絶対そう思う」
二人してゲラゲラ笑うと、氷で薄くなったジュースの残りをかき集めるよう飲んだ。もうこれ以上飲めないとわかれば、あきらめて店を出て映画館へ向かった。
 映画館に着き上映時間を確認すると、世間をにぎわせている話題の恋愛映画があと五分で上映を開始するところだった。
「どうする?灯ちゃん。見たい?」
「もちろんだよ!どんなに胸キュンするか、かつ感動するか確認しなきゃ!」
「胸キュンに感動か……いいねぇ。女子に胸キュンは必要だよね」
「でしょ?さ、見よう見よう!」
はりきって映画のチケットを買うと、中に入ってまずトイレへ行った。この後映画が終わるまで行かなくてもいいように。そしてジュースを買ってシアター内に入った。封切られて一か月もたっていたが、空席があまり見られなかった。人気のすごさを物語っていた。
 そして実際に見て、なぜ人気があるのか分かった。内容が良いのだ。
 よくある展開で、愛し合う二人の片方が不治の病に侵され最後は亡くなってしまうのだが、ひたすら愛を与え続け、何の見返りも求めない二人の姿は美しかった。その口から紡がれる言葉は宝石のようにすばらしく、感動した。あまりの感動に、終わってもしばらく現実に戻れなかった。
「そろそろ現実に戻ってもいい頃ではないか?」
「えっ?」
バイトから帰り風呂から上がると、またまた心に残ったワンシーンを回想し感動に浸っていた。すると、ロマンスは突然言った。右手に持った小豆入りの棒アイスは食べかけで、なんともミスマッチである。
「もう戻りましたよ。今は余韻に浸っているだけです」
「病と言うハードルを乗り越え愛し合う二人か。……いいねぇ。ちまたじゃ不倫だ、浮気だと騒いでいる中、なんともすがすがしいではないか」
「良い事言いますね!その通りです。私もあんな風に誰かをまっすぐに愛してみたいです」
「おお、めずらしい。えらく前向きだな」
「前向きで悪いみたいじゃないですか」