「その潔さに敬意を表して、行ってみようか」
「そうだね。もしかしたら、彼氏ができるかもしれないし」
「彼氏?何で?」
「このチケットをくれた翔太君が言うには、ウエイターをやっている男子学生の半分は彼女がいないんだって。だから私に『女子二人で来てね』って言っていたんだ。C大って学部いっぱいあるけど、意外に出会いがないんだね」
「マジで!ウッソー!C大生が彼氏になるなんて願ったり叶ったりだよ。ますます行きたくなってきた」
「よーし。ライブは午後二時から始まるし、早速行こうか」
「うん、早速行こう!」
私と灯は親指を立てニカッと笑うと、さっそうと歩き出した。人が多くて歩きづらかったが、上手によけた。中央棟の正面玄関で店や出し物の案内図を受け取れば、翔太のいる店に向かってウキウキしながら歩いた。それくらいテンションが上がっていた。
 翔太がウエイターを務めるカフェ『ヤンチャBOY、オテンバGIRL』は中央棟に向かって左側に立つ三号館一階、いつもは学生の憩いの場である談話室を利用して営業していた。なぜなら窓の外から、私の学校にあるのと同じ飲み物の自動販売機が、目隠しした布で隠し切れずチラリと見えたのだ。
(人数が多いだけあってうちの学校より広さはあるけど、置いてある物はあんまりかわらない。丸テーブルと椅子、衝立の向こうにはコピー機もある。談話室ってどこも同じなのね)
「知佳ちゃん、入らないの?」
「ううん、入るよ」
さらにテンションを上げ中に入ると、室内はそこそこにぎわっていた。入り口から入って席を探していると、ホテルマン風におでこが見える髪型にセットした翔太と目が合った。白と黒で統一された室内にマッチするよう、白いシャツと青のネクタイ、黒のベスト、ふくらはぎが隠れる丈のエプロン、革靴でコーディネイトされた衣服を身にまとった彼は、グッと大人っぽく見えた。
 私のそばまで寄ってきてニッコリ『こんにちわ、よく来てくれたね』と微笑めば、恋のバロメーターは一気に上がった。