「誰のせいで怒っていると思っているんですか！」
「ほらほら、そんなに大声出すと腹が減るぞ。腹が減れば何か食べたくなる。もう午後十時を回っているのに、食べたら肉か脂肪になるだけだぞ。ブタになりたいのか？」
「ぬっ……」
「ブタになったら、今流行りのファッションが着こなせないぞ。細身の女に合うようデザインされているからな。それとも、気にしないで着ちまうか？男たちにチヤホヤされず、『あの三段腹、マジでキモクね？自分の女なら絶対許せねぇよな』と陰口をたたかれるのか落ちだぞ」
「ぬぬぬ……」
「モテ子になりたくて血のにじむような努力をしているのに、残念だとは思わぬか？」
「それは……太ったら困ります。残念です」
「そうだろう？枯れ木のように痩せろとは言わぬが、三段腹はいかん。『健康的なスリム』を目指すのだ。『ボン、キュッ、ボン』の体になるのだ。それだけでモテ度はググッとアップだぞ」
「はい」
「と言うわけで、大声だして怒鳴るのはやめよう。よいな？」
「わかりました」
私はうなずくと、ロマンスの後について部屋に入ろうとした。するとロマンスはズボンのポケットから何か取り出し私の目の前に差し出した。
　それは新発売のチョコレートだった。秋を意識したのか、マロンクリームが中に入っていた。
「くれるんですか？」
「そうだ」
「あ、ありがとうございます！」
私は嬉しくて、さっそく開けると一粒食べた。
「おいしい！」
「そこいらでやめとけ。本当にデブになっちまうぞ」
「はい」
「ただ、今日私がやった事は覚えておけ」
「へ？」
「毎日、同じ調子で相手に接していたらダメだ。飽きられるからな。たまには良い意味で驚かせてみろ。サプライズだ」