「家庭の事情で浪人しなければならない人もいると思う。今は不況だから、お父さんの会社が倒産して再就職できたとしても、以前のような給料はもらえない。でも大学で勉強したいから浪人してバイトして学費をためている人もいるだろう。そういう人は、努力がたりなかったって言えるかな?サボったって言えるかな?」
「倒産するような会社に勤める父親のところに生まれた人が悪いのよ。私みたいに、パパが一流企業に就職すれば、倒産することもないんだから。ちゃんと親を選べっての!」
「人生うまくいかない事もたくさんある。そんなふうに人を馬鹿にしたら、いつか痛い目にあうよ」
「何、あんた。図書館司書の分際でエラソーに意見すんじゃないわよ!」
「俺は自分がエラい人間だとは思っていない。ただ、図書館司書の仕事は好きだし、誇りに思っている。それに、一年くらい浪人したり留年する事は大した事じゃない。いや、社会人になったら、むしろ良い経験になるかもしれない。多くの人はいろんな悩みを抱え、苦しんでいる。コミュニケーションを取るためにも、良い仕事をするためにも、失敗した経験は大切な糧になる。恥ずかしい事なんかじゃない」
「恥ずかしいわよ!家の恥さらしよ!一生ダメな人間よ!」
アミの叫びは、広いホール中に響き渡った。私の周りにいた人達だけでなく、ホールの中にいた学生や教授たちは皆、食べる手を止め、二人のやり取りを食い入るように見ていた。みんな『何事だ?』という顔をしていた。ケロッとしているのは、マアコ、ユカ、だけだった。
 さすがに私は胸が痛くなり、椅子から立ち上がると裕矢とアミを見た。
(もう、選ばなくちゃ……勇気を出さなきゃ!)
するとアミはギロリと私を見た。
「何よ、あんたまで私に意見する気?」
「うん……」
「フザケンナ、ブス!この前、男にやり逃げされたくせに!」
私はドキッ!とした。よもや親友が私の痛すぎる傷を大勢の前でひけらかすとは思っていなかった。
「アミ、やめてよ……」
「うるさい!あたしに意見すんな!意見したかったら、私の彼氏よりすごい男と付き合いな。図書館司書なんて、三流大出の男と付き合ったりするんな!」