裕矢は私をチラリと見た。私はドキッとした。
「俺は知佳ちゃんに、片思い中です」
「おぉーっ！」
灯、やす子、ミサオは驚いた。私はますますドキドキした。
「今日は先日ごはんを食べに行った時に、お礼に知佳ちゃんがごちそうしてくれるって言うので、予定通りしてもらっています。ま、デート中ってトコです」
「知佳ちゃんは、脈ありですか？」
「やす子ちゃん、そんなにダイレクトに聞かないの！」
「あら、そう？なんか気になっちゃって」
「みんな気になっているけど、そういう事は遠回しに聞くものだよ」
「ほほう、たとえばどんな感じ？」
「たとえば？ええっ？どんなんだ？あらためて聞かれると説明に困るな」
灯は予想外のやす子の切り返しに目を白黒させ考えた。私たちはさらに爆笑し、ミサオは目に涙をためていた。そのうち笑いすぎで頬の筋肉が痛くなってきた。このまま笑い続けたら、筋肉痛になるのではないかと思った。
「あっれー、知佳じゃない！」
ふいに、マアコの声が聞こえた。声のした方を確認するよう振り向くと、案の定、マアコ、アミ、ユカ三人が、パンと飲み物を持って立っていた。三人は私をチラリと見た後、一緒に座っている灯や、やす子、ミサオ、そして裕矢を見た。
　裕矢を見たとたん、マアコ、アミ、ユカは『あっ！』とひらめいた顔になった。彼が、さっき私が話していた『会わなければならない男性』だと気付いたようだ。
　とたん、三人はジロジロと裕矢を見た。値踏みしているようだ。『こんにちわ』も言わない。ユカなどまた『あっ！』と小さく叫べば、マアコにコソコソと耳打ちしだした。何とも感じの悪い態度である。
　さきほどまで盛り上がっていたのはどこへやら、私たちはすっかり黙り込んだ。さらに私は裕矢が怒り出しやしないかとハラハラした。自分ならプライドを傷つけられ、キレるだろうから。
　しかし裕矢は眉間に少しシワを寄せているだけで、怒り出す気配はない。静かに彼女たちの様子を見守っていた。
（裕矢さん、大人だな）