教えて!恋愛の女神様

(『男に人前で恥をかかすな』か。それってつまり『〇〇さんって、ここがダメですよね』とか、『何でそんな事できないの?』とか人前で言うなって事だよね。よーし、気を付けるぞ)
頭に刻みつけるため、講義中はもちろん、待ち合わせ場所である学食の中のパン屋に着くまで、頭の中で何度も繰り返した。
 パン屋の前に着くと、裕矢はすでに来ていて新作のパンを試食していた。私は『早い!』と驚きつつ、新作のパンがどんなものか気になり、試食しようと店の中へ入った。すると、振り返った裕矢と目が合った。
「あっ、知佳ちゃん!」
「こんにちわ、裕矢さん。待たせちゃいました?」
「ううん。少し前に来たばかりだよ」
「そうなんですか?パンを試食しているから、すごく早く来たのかと思っちゃいました」
「ごめん、驚かせて。単におなかが空いていたのと、新作のパンがおいしそうだったのとで、知佳ちゃんが来る前に入っちゃった」
裕矢はいたずらっ子のように笑った。彼の笑顔はとてもかわいくて、ちょと胸がキュンとした。
「そうだ。知佳ちゃんもどれか味見してみる?」
「はい、ぜひ!あっ、私、サツマイモが大好きだから、サツマイモパンを食べてみようかな」
取ろうと手を伸ばすと、裕矢が先に取り、私の口元へ持ってきてくれた。
「さ、『あーん』して」
「えっ?」
「食べさせてあげるよ」
「い、いいですよ。自分で食べますから」
「俺が食べさせたいんだ。ほら、あーんして!」
言ったとたん、裕矢の眉間にちょっとシワが寄った。気分を悪くしたらしい。
 ふいに、ロマンスに言われた事を思い出した。『人前で男に恥をかかすな』。
 今、店内にはお昼時と言う事もあり、十五、六人の客がいる。そのうちの何人かが、私達をちらちら見て、様子をうかがっていた。
(ここで断ったら、裕矢さんに恥をかかせる事になる。『あーん』することは別にむずかしくない。やってあげるか)
はずかしさにドキドキしつつ、私はゆっくりと口を開けた。すると裕矢は満面の笑みでつまんだパンを私の口の中へ入れた。口の中にはパンの良い香りと、サツマイモのやさしい味わいが広がった。
「どう、おいしい?」
「はい……」
しかしコメントできない。彼氏でもない男性から人前であーんしてもらえるとは思わなかったから、恥ずかしかった。