空き部屋を使う許可を得て、私を運ぶ碧。
お姫様抱っこなんて言う、キザ極まりない行動も、碧がやれば様になる。
それこそすれ違う皆々様が羨ましげに私をみるくらい。
「生意気」
私は碧の首に手を回して顔を寄せて、誰にも聞こえないような声で呟く。
それに対しては何も返事をせず、軽やかに私を運ぶ碧。
私が何を言っても、
貴方は従順な執事。
それ以下でもそれ以上でもないの。
『着きましたよ、お嬢様』
徹底した態度を貫き通す。
絶対外れる事ない執事の仮面。
「昔はこんなんじゃなかったのに」
昔は、私の事を、お嬢様なんて呼ばなかった。
敬語は、皆の前でしか使わなかった。
………碧が敬語を使うようになったのも、椿、って呼ばなくなったのも、
六年前のある日からだった。