隷従執事の言いなり



碧は、いつだって従順で。
執事に徹底していて。

なのにそれが、今目の前で破られた。

「い、い、今、椿って…!」

今度こそ、ごまかされたりはしない。

『呼んじゃ悪いかよ』

碧だってごまかすつもりはないらしい。

「だって、なんで!なんで!?」

あの頑なだった碧が。
私の事を椿って。それに敬語じゃない。

ちゃんと目を見て呼んでくれた。

それだけでこんなに嬉しくなるなんて。


私は今の状況も体制も忘れて、目を輝かせて碧に詰め寄る。


「どうしたの?なんで?ねぇ」

理由が分からなくて。
一度はうやむやになってしまったのに。
どうして今になって再び自分からこの状況を作り出したのだろう。


『おい椿、この状況で自分から顔寄せて…キスでもされたいのかよ』

「ひゃっ」

急に碧が体を寄せたから、背中は壁についていて、表側なんて碧の体と密着している。

『そうやって、男誘うわけ?』

「なんの…はな、しっ」

碧は私のうなじに顔を埋めて、そこで喋る。

でもわたしには碧の言ってる意味が全く分からなくて。


『俺のことも誘って見ろよ』


誘う誘うって…。
何に誘うのかも分からないし、碧に言われるような見に覚えもないし。

「分かんないよぉ…」


碧とこんなに距離が近いだけでも神経がそっちにいってしまってパニックになるのに。

さらにわけ分からない事を要求されてしまえば、とうとう頭は真っ白になってしまう。