暫く車に揺られて、到着したのは蕪木邸。
『椿様行きますよ』
「えっ…う、うん」
思ってるよりもずっと、碧の機嫌は悪いのかもしれない。
車の中でも会話は無かったし。
今の声だって苛々を感じさせた。
「碧…?何をそんなに苛ついてるの…?」
『苛ついてなどいません』
そういう碧だけど、私の前をずんずん歩いて、本来の執事としての位置に反している。
私はそれを必死に追い掛けながら、碧の話を聞き出そうと声をかける。
そのまま歩いて、碧が立ち止まったのは私の部屋の前。
『中へ』
碧がを開いたから、部屋に入る。
いつもならここで碧とはお別れ。
部屋に入るのはメイドさんだけだから。
私はてっきりそのつもりでいたのに、
『貴方達は結構です』
「へ?碧…!?」
何故か側にいたメイド二人に退室を命じ、代わりに碧自ら部屋に入って来た。
「何で碧が…!」
『何を怯えているのです?』
「お、怯えてなんか…」
実際のところは、心臓はバクバクで。
おまけに、碧がうしろに回した手で鍵ん閉めたから、肩まで強張る。
『何故逃げるのです?』
「だって、なんか…」
後ずさりはどんどん進み、いつのまにか壁に追いやられて逃げ場を失った。



