敬語だし、口調はいつもと同じなのに。
何故か感じる威圧感。
『聞いてしまった事は、無かった事にはならないのです』
息がかかる程近い距離に、碧の整った顔がある。
『決して、聞く前には戻れないのです』
碧が何を言いたいのか、私には分からないけど。
これ以上聞いてはいけないということは分かった。
それ程までに隠さなければいけない事…。
一体何なんだろう。
それが私に伝わる日は、来るのだろうか。
『手荒な真似をして、すみませんでした』
一瞬にして離れた体。
二人の距離はまた、執事と主の距離に元通り。
斜め後ろに、碧の気配。
手首が、熱い。
『ごめん椿』
…………………え?
「碧…今……」
今、確かに聞こえたの。
とてもとても小さい声だったけど。
聞き逃すなんて、するわけない。
「今椿って……!」
思わず斜め後ろを振り返る。
絶対絶対、椿って言った。
『………さ、戻りましょう、お嬢様』
なのに、当の本人は既に執事の顔で。
呼び方だって、お嬢様だし。
「何で…?ねぇ碧…!」
何で一度喜ばせるような事をしておいて、直ぐに知らんぷりなの?



