隷従執事の言いなり



『花が曲がっておりましたので』

そう言って私の胸元の花を真っ直ぐに戻す碧。

でも、納得いかない。

「そんな事のためにわざわざ?」

『はい、身嗜みは整えなければ』

碧の言う事はもっともだけど。
たかだかそんな事のために、碧が取り乱す筈はない。


「別にあの場でも出来たでしょ」

『………』

言葉に詰まった碧は、珍しい。
でも、やっぱり変だ。


「何か、話したい事でもあったの?」

それが何かなんて全く検討もつかないけど。


『お嬢様、戻りましょう』

碧はすぐにはぐらかそうとする。

「連れてきたのは碧でしょっ。本当の理由、教えてよ…!」

私が少し声を荒げたその時…、


ドンッ


「痛……!」

『お嬢様』


碧の声が、すぐ近くで聞こえる。

背中に走った痛みに、反射的に瞑った目をそっと開ける。

「な!ち、近近っ」

目の前は、他に何も見えない程碧でいっぱいで。
視界をうめつくす程に、その距離は近い。


壁と碧に挟まれて身動きが取れない。
おまけに両腕は壁に押さえ付けられているし。

一体、何が起こってるんだ。


『お嬢様、それ以上聞いてはなりません』