勢い良く振り替えると、
『椿様』
再び私を呼ぶ碧の姿があって。
「ど…したの…?」
なんだか空気がピリッとしている。
心なしか眉間に皺がよってる気が…。
『こちらへ、』
「へ?ちょっと何…!」
私の体をくるりと拓真さんと逆の方に向けて、後ろに回った碧は私の腰をそっと支えて、前へと軽く押した。
私は押されるがままに足を進め、遂にドアをくぐって廊下に出てしまった。
「きゃっ…」
その途端碧は、私の手首を掴んで、手を引いた。
まるで人がいなくなった途端、だ。
「碧…!?」
碧の背中を見るのは珍しい。
だって、碧の位置はいつも私の斜め後ろ。
こんなにまじまじと背中を見る機会は無いのだ。
しかし、何が起きてるか分からないこの状況で、この際背中は置いとくべきだ。
「碧…!碧!碧ったら!」
私が何度も名前を呼ぶと、一瞬肩をビクリと揺らした碧は立ち止まった。
「……急に…どうしたの?」
少々息が上がっている私は途切れ途切れに言う。
暫く私に背中を向けたまま立ち止まっていた碧は、ゆっくりと振り返った。
振り返りぎわに見えた、悩んだような表情は、正面を向く頃には消え去っていて、そこにはいつもの仮面のような笑顔が張りついていた。



