碧の作ってくれたドレスを身に纏い、会場へ戻ろうとする。
「…来ないの?」
てっきり一緒に戻るのかと思ったのに、歩きだした私の斜め後ろに碧の気配は無い。
『片付けてから参ります』
碧の視線の先には散らばった布やその他もろもろ。
流石にこのままにしておくわけにはいかない。
「…分かった」
威勢よく部屋のドアを開けたはいいんだけど。
…一人で大丈夫かな?
隣にはいつも碧がいたから。
私は既に怖じけずいていて。
…何が令嬢だ。
執事がいないと何も出来ない子供のくせに。
…こんな自分が嫌になる。
『直ぐに参ります』
「…うん」
──バタン
『……あー、くっそ…』
ドアは閉まってしまったから、私は知らなかったんだ。
ドアの向こうで碧が悔しそうに頭を掻き毟っていたなんて。
『椿の野郎…いつの間にか女っぽくなりやがって……』
こんな呟きだって、聞こえる筈が無かったんだ。



