一瞬船が海面を離れ、宙を舞ったような浮遊感に見舞われたその直後、バラバラと詰まれた荷が朱音目がけて崩れ落ちてきたのだ。身動きのとれない朱音はただ身を固くして衝撃に備えることしかできなかった。
 しかし、訪れる筈の衝撃はいつまで経っても訪れなかった。
 ただ、荷が床面に崩れた音が聞こえただけ。
 今尚シーソーのように揺れる床面の上で、朱音はじっと暗闇の中で目を凝らした。
 朱音は驚きで息を吸うのも忘れてしまった。仰向けに倒れた自分の身体の上に、フェルデンが覆いかぶさるようにして手をついていたのだ。
 暗闇の中でも、フェルデンの金の髪は見えた。短かった髪が少し伸びたようだ。
「っつ・・・、大丈夫か・・・?」
 朱音を庇った際にどこか怪我をしたのかもしれない。フェルデンは少し呻いた後、静かに呟いた。
 今にも彼の心臓の音が聞こえてきそうな距離に、朱音はぎゅっと目を閉じた。本当は“大丈夫”と彼に直接言葉で伝えたかった。でも、まだ正体を悟られる訳にはいかない。
「おい・・・? どこの誰だか知らないが、なぜ何も話さない? ひょっとして、どこか怪我をしているのか?」
 こんなにも近くにいるというのに、暗闇は今の朱音の姿を全て覆い隠してくれている。フェルデンはまだ暗闇に目が完全に慣れていないせいもあって、真下にいるのがクロウ王だとは気付いていないようだ。
(お願い・・・! 気付かないで・・・!)
 朱音はとにかく祈った。彼がクロウに気付きませんように、と。
「・・・ネか・・・?」
 ギシギシと軋む音の中で、何かをぼそりと呟いた。
「アカネなのか・・・!?」
 朱音は我耳を疑った。まさか、フェルデンが自分の存在に気付くとは思ってもいなかった。