「私は不満です」
原稿に向かう貴方に、後ろから抱き付きながら言うセリフではありませんが。
我慢出来なかったのです。
『何が不満なのですか?』
貴方の声に変わったところはありません。
いつもの優しい声。
動揺や緊張は、してないみたいです。
「原稿にしか向かない貴方が不満です」
『どうしてです?』
貴方は私の腕を解いて、椅子を反転させて私の方を向きました。
『ほら、貴方にも向いていますよ?』
私を見上げる貴方。
家から出ないだらしない姿。
なのに私は、心揺らされます。
「私が言いたい事、分かってるんですよね?」
『さぁ。貴方はとても不思議だから』
貴方はまた原稿に向かってしまいます。
でも少しだけ振り向いて、
『こんな男を好きだと慕う、貴方はとても不思議です』
意地悪を、言う。
貴方はご自分の魅力に気付いていないだけ。
私を惹き付けて止まない。
一瞬で虜にしてみせたのです。
その手から生み出される文だって、幾つの賞をとっていると思っているのでしょう。