私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

しばらく思い切り笑ったことがない。笑っていても、どこか重い胸をごまかしながらの虚しい声だった気がする。

ずっと眉間にしわを刻みながら、自分の笑い声をどこか遠くで聞いていたのだ。


「しかめっ面してても笑ってても、乗り越える困難は同じでしょ。だったら笑ってたほうが得な気がしない?」


その言葉は、春樹の顔を思い出させた。

めったに苦しい顔を見せなかった。どんなに苦しくても、いつも何もなかったように平然と笑っていた春樹を。

夏子さんの笑いがさらにトーンを増した。


「雪もそう思うだろ」


そう言って振り向いた瞬間、すぐ脇の門扉から大きな犬が顔を出して吼えた。

「ひえ!」

不安定な状態でうろたえた夏子さんは、そのままバランスを崩して尻もちをつく。

その間抜けな悲鳴と表情。そしてあっけない転び方が、私の眉間のしわを氷解させた。

「ぷ!」

春の夜風に私の笑い声がこだました。

「ちょっと、そこは笑うとこじゃないって」

やや目つきを険しくした夏子さんが立ち上がろうとしたそのとき、またしても激しく犬が吠え立てる。

油断していた夏子さんは、またしても素っ頓狂な叫びをもらした。

もう私は耐えられない。私の笑い声も犬の声に負けていない。おかしかった。ただ、単純におかしかっただけだ。

それでも笑いというのは、幸せには必要なものだとはっきり分かった。

「雪、あんたよく笑えるね」

「だって……夏子さんのあの顔……」

帰り道、それを思い出しては私のお腹はよじれるのだった。