ここはもと下宿だったそうだ。それをやめてコインランドリーを始めたところ、暇を持て余す客が多いことに気づき、空いている部屋をネットカフェにすることにしたそうだ。

もちろん、そのアイデアは自慢の息子のものだという。

「漫画本はこの部屋。冷蔵庫はそっちにあるからね、お茶とアイスコーヒーは飲み放題。部屋は101と102でいいね」

漫画本が置いてある部屋を覗くと、本棚にずらりと並んでいるのはやたらと漢字が多い、劇画タッチの漫画ばかりだ。

いっぽう、廊下においてある冷蔵庫を開けてみると、タッパに入ったお茶とコーヒー以外に、この家の食材だろう。豚肉のパックと大根も一緒に入っている。


(なんだかなあ……)


朝までのパックが1000円というのは、安いと言えば安い。

が、それは最新の設備と細やかなサービスと清潔感が備わった上での価値観となる。この設備とサービスであれば、1000円が安いとも言えないだろう。


「あたしはこっちで、海野さんはこっちね」


夏子さんにそういわれて、恐る恐るドアを開ける。

なにが出てきても驚かないつもりだったが、その心積もりをしていても驚きの声をあげていた。


ドアの向こうは、そのまま4畳半の畳敷きの部屋だった。

壁際のちゃぶ台にはちゃんとパソコンが置かれ、その脇のカラーボックスの上には、14インチのテレビが置いてある。

私はその部屋に入ったとたん、涙しそうなほど感激した。


「なにこれ、横になって寝れるの!」


ご丁寧に、部屋の隅にはマットと毛布が用意してある。

ネットカフェで寝泊りしていて、なにが一番問題かというと、リクライニングのシートでは、どうしても熟睡できないということだ。

肩がパンパンに張っていたり、足がむくんだり、朝になると膝が痛くてしばらく立てないこともある。


それが、ここは民宿とほとんど変わりない。


こんなところであれば、そりゃあ飲み物が麦茶とコーヒーだけでも我慢しようというものだ。

漫画だって、眉毛の太いむさ苦しい主人公しか出てこなくたって文句は言わない。


私は真っ先に寝転んだ。