「ピンはね(又は偽装請負、人貸し)」

労働者を企業へ供給し、その報酬の上まえをはねる行為。

戦前から戦後にかけて多く見られたが、労働者の安定を推進するために、国は職業安定法を制定。

同法44条では「労働者供給事業」として禁止。

また、労働基準法6条では「中間搾取」として禁止し、それぞれに重罪を科してその撲滅を図ってきた。



しかし1986年、日本の労働環境は大きく変わる。

「労働者派遣法」施行開始。


これにより、それまで重罪とされてきたピンはねは、一日にして合法へと変わった。




それから22年──





「清しーこの夜ー星はー光りー……」

雪が降ると、この歌を思い出す。

母が小さな私によく唄ってくれたものだ。


季節は2月。今日は東京に雪が降った。

仕事の帰り、はらはらと肩に落ちてくる雪を見ていると、今はいない母のことを思い出した。

「雪が産まれた時にね、すごく雪が降ったのよ。だから雪って名前にしたの」

雪が降るたびに、くどいほど聞かされたものだ。


私はそれを

「何度も聞いたよ」

とは言わなかった。

すごく温かい目で私を見てくれていたから。


そんなことを考えながら、雑居ビルの並ぶ通りに入ってゆく。ここも、いつのまにか見慣れた景色になってしまった。

「ネットカフェ・アーバン」

と書かれた立て看板の前で方向を変えると、そのビルの小さなエレベーターに乗り込んだ。

ニット帽に積もった雪を払いながら、ドアが開くのを待つ。

着いた先は、しんと静まり返った薄暗い空間だ。


カウンターで構えていた女性店員は、

「また来たか」

と、言いたげな顔を作る。