風で黒髪が揺れた。

襟足が肩ぎりぎりかかるくらいあり、後ろ髪を束ねている。

束ねた髪は風任せになびく。

多分、背中の真ん中辺りまであるだろう。

「8年前、オレは何故か祭壇の間にいた。状況がわからなくて、わかるのは名前だけだったこのオレが、王女なんていう偉いやつに遣われて。」

「私の命令だもの。逆らえないわよ。」

「なんでオレだったんだ?シューだっていたのに…。」

リィナは空を見てしばらく考えた。

「さぁ、なんでだろうね。」

「お、お前!そんなことでいいのかよ!」

「ただね。」

レイドの言葉を遮るように、言葉を発した。

「あのときからあなたがいるだけで嬉しいの。」

青年は頬を赤くした。

「ばっばか!からかうなよ!」

「本当のことよ。あのとき、独りになった私が、あなたを見つけたときに救われた気がしたの。私は、感謝してるわ。」

三日月の目になって、彼女は満面の笑みを溢した。

「……」

彼はただ顔を赤くして、顔を背けていた。

「さぁ、ご飯よ。行きましょ♪」

リィナは元気に廊下へ走り去った。