今の地点からルーゼンまではあと5時間程度。

時間的には余裕がある。

しかし、リィナの身に何があるかはわからない。

一刻も早く、戻らなければならない。

「先ほどの魔法、聖光魔法でしょう?」

アクリスはレイドの背中に話しかけた。

「あぁ。よくわからないけど、オレの中に元々あったらしい。」

「それが解き放たれたのですね?」

「そうらしい。」

レイドにはいまいちわからなかった。

何故、自分にそんな力があったのか。

そして、あの声は誰なのか。

だが、今は考えている場合ではない。

今はリィナの命を救うことだけ考えればいい。

「あの闇系魔法は、心に迷いや不安がある人間が堕ちやすいものらしい。」

「どういうことです?」

「アクリス、オレには過去がないんだ。」

「……!」

「だから、自分が“異人”であることも最近まで知らなかった。その前に“異人”を知らなかったんだ。」

「そうでしたの……。」

「オレには過去を知らない不安や、リィナの側近騎士である資格があるのかとか、迷いが幾つかある。その隙間に闇は入ってきた。」