息を大きく吸って止めた。水に潜るみたいに目も閉じて、黒に踏み込む。
反発があったが進むのに問題ない。二、三歩進んだとこで、空気が顔を撫でた。
息を吸い、目を開ける。
眼前に広がる光景には吸った息を吐き忘れた。
広い。
どこかのホールみたいだ。舞台でもやるのか、ステージがあり、赤い幕が垂れ下がっている。
照明はあるのに足りてないのかどこか暗く、重い。
「やあ、いらっしゃい」
そこに兄はいた。
痩せこけて背が高い、ダークスーツを身にまとい、右手にはタクトを握っている。
左手を腰にあって、満足げな笑みを浮かべていた。
「待っていたよ、愛しいユリウス」
「兄さん……」
「ひどいなぁ、昔みたくお兄ちゃんって呼べばいいのに」


