ちゆまど―世界は全て君のために―



「話してくれて、ありがとうございます」


もう聞くことはないとシブリールは、ユリウスを抱き上げ、家をあとにしようとした。


「シルさん、イナディアル君は、元気じゃったかい?」


「……ええ」


「そうかい。なら、良かった。ご両親も報われる」


「……」


真実を話すには野暮だと思った。

語らなくていい事実がある。


シブリールは黙って、家を後にした。


久々に診療所に帰る。


しばらく放置していたんだ、ホコリっぽいと思ったが、村の誰かが掃除でもしたんだろう。綺麗なものだった。


「ユリウス……」


ベッドに寝かせて呼びかける。


こんな時、どんな言葉をかけていいか分からなかった。


信じていたもの、愛していたものに裏切られ、両親を殺され、自分もまた殺されようとしている。