「あ、ワンちゃんだ!」
はっ、はっ、と舌を出して笑う犬がいた。
真っ先に駆け寄ろうとしたが、お兄ちゃんが待ったをする。
「危ないよ、ユリウス。噛まれる」
「どーして。ワンちゃんはお手するんだよ、ゼルさんの家のラッシュもお手するよー」
「いいかい、全部が全部危険じゃないと見るのはいけない。この世はね、危険ばかりなんだ、油断なんかしてはいけない。いつ食べられるか分からないからね。小さなアリだって噛みつくんだ、あんな大きな犬なら尚更――ユリウス!」
話が長くて嫌になったので、私はお兄ちゃんの手を振りほどき犬に近づいた。
案の定、噛まれた。
お兄ちゃんが近づくなり犬は逃げたので大事には至らなかったが、痛くて泣きわめいた。


