「僕の名前……。名前、知らない」
「お名前ないのー」
「そんなことないでしょう。ほら、お父さんが立派な名前つけたじゃない」
「気に入らないか?」
「そんなこと、ない……。なんだか、慣れなくて、名前があることに」
「その内慣れるさ。その第一歩だ。ユリウス相手に練習なさい」
こくりと頷いたお兄ちゃんは、手を出してきた。
「イナディアル、よろしく。ユリウス」
出された手を握り、ぶんぶん振った。
お父さんとお母さんは、お兄ちゃんを抱きしめ頬擦りしている。
「さすがは私の息子だ!」
「将来有望ねー」
「ねー」
真似っこで私もお兄ちゃんに頬擦りをした。
その時のお兄ちゃんの顔はよく覚えている。


