屋敷の中は赤い絨毯が敷き詰められていた。
チリ一つない。使用人が何人かいるのかとも思ったが、誰ともすれ違わなかった。
「あの……ここの魔術師って……一国の主なんですよね」
「魔術師って……まあ、姫はこの国の主だ。ああ、俺はクロス。姫の騎士をやっている」
やはり騎士だったか。にしても、一国の主にしては小さな屋敷だな。
「ここはその方の別荘か何かですか」
「いや、本邸だ。第一、別荘なんかない」
「へえ」
「姫は物欲がないんだ。自分に金回すなら、民のために使うお人でな。使用人もいない。いるのは俺とさっきの男ロードだけ」
「え、それって大丈夫なんですか」
「なにが」
「いや、もしも戦争とか起きたら」
「姫は戦争など起こさないし、他国も姫のお人柄がいいせいか攻め込むこともしないな。平和だけが取り柄のいい国なんだ」


