トイレから出た惣一郎はダイニングへ来た。

『母さん、ガキ外から開けられるようにしてくれよ』

美和子はなかなか食事しない弟に手一杯だ。

『ん~でも母さんは困らないからね~;拓ちゃんお茶で遊んじゃダメ』

弟は水遊びが好きで食事にならない。

『母さんは困んないだろうけどさぁ…』

『ママ~麦茶ちょ~うだい』

父が新聞を読みながら言う。

『あっ、はいはい』

美和子は、返事をしたが、弟に付きっきりだ。

冷蔵庫の扉が、ひとりでに開いた。

中から麦茶のペットボトルが、父の方に、ふわふわと、飛んで行く。

父のコップが空中に浮いた。

フタが開き、お茶が注がれ、父の手に…。

『ん、ありがと』

父は当たり前の様にそう言った。

今ダイニングでは、フライパンが中を舞い、目玉焼きを作っている。

火にかけられたみそ汁を、オタマが勝手に混ぜている。

食べ終わった食器は、空中を舞い流しへ行き、スポンジや洗剤が、勝手に洗い始める。

まるで何人も透明人間が居て、炊事をしているようだった。