「っもう、そろそろなんか言ってよ! 無視するならどっか行ってよ!」
「こっちも放ったらかしてどっか行きたいのはヤマヤマだけど、あんた、足踏んでるし」
「……へっ?」
またもや彼の視線をたどり、目を落としたのはふたりの足元。
なんと摩訶不思議、本当にわたしの右のローファーが、彼の左のスニーカーをしっかりと踏みしめているではないか。
「……わざと?」
「ちっ、ちがいますっ!」
「いいから早くどかしてくんない?」
言われなくてもいまそうしようと思っていたところだ。
そっとローファーを浮かすと、現れたのは白ベースのかっこいいスニーカー。
けれどももはや目も当てられないほどどろどろに茶色く汚れてしまっている。
連日の雨のせいでぬかるんだ土が、ローファーの裏にかなり付着していたみたい。
「ごめん、なさい……」
これにはさすがのわたしも申し訳なくなり、頭を下げて謝った。
「べつに」
「ク、クリーニング代っ」
「いらない」
淡々としゃべるから、怒っているのか、あきれているのか、もう話すのもダルいと思っているのか、ぜんぜんわからない。
もう黙っていようかな。
バス、早く来ないかな。
「ていうか、人のスニーカーより自分の顔面気にしたほうがいいと思うけど」
「は……」
「めそめそ泣くくらいなら、言いたいこと全部吐き出してすっきりしたら?」
無神経なわりにはなんだか至極まっとうなアドバイスをするんだなって思った。
ためしに、すうっと肺いっぱいの酸素を吸ってみる。
次にその全部を吐きだすと、不思議に心が少しだけ軽くなった感じがした。
これは、けっこう、意外にいいかもしれないよ。
「ヤスくんのばっきゃろー!! 経験値上げてやるから、見てろよー!!」
交通量のまま多い国道にむかって叫び散らかしてみたら、本当にちょっとすっきりした。
言葉ってすごいんだ。
言葉の力をなめちゃいけないな。



