その日はもう、場所も時間も選ばず泣いて、泣いて、泣きぬいたから、さすがに涙も枯れてくれるかと思っていたのに。
「うう……まだ出る……」
ぜんぜんダメ。
涙腺がバカになったのかと思うくらい、もうずーっと緩みっぱなし。
おかげで先生も遠慮してくれたのか、どの授業でもいっさい当てられずに済んだけど。
その代償に、クラスではちょっと、いやかなり、浮いたけど。
ほんと、みじめ。
3か月しかつきあってない、合コンで出会ったはじめての彼氏にふられただけで、こんなに泣いて。
ぶさいくを世間に晒して。
ヤスくんのばか。ついでに、キョンのばか。せんせーのばか。クラスメートのばか。
わたしの、大ばか。
「ぜったい、ぜったい、経験値バク上げしてやる……!」
いつものバス停で一世一代の決心。
大通りに面しているこのバス停は排気ガスくさくてたまらないのだ。
泣いているのはそのせいだと言わんばかりに眉をしかめてみたりもしたけど、やっぱりわたしの周りにはちょっとした溝ができていた。
うう。もういいよ。思いっきり泣いてやる。ふん。ふんふん。
「――そこ、邪魔なんだけど」
そんなわたしに怖気づくこともせず、なんの遠慮もなく、最初に話しかけてきたのはあまりにも冷たい声だった。
いったいどんな無神経なやつかと思って顔を上げる。
声の持ち主は、不機嫌なのをいっさい隠そうともせず、ぬうっとわたしを見下ろしていた。
「そこの時刻表。あんたのせいで見えないんだけど」
そう言われて視線の先をたどってやっと、気づく。
なるほどたしかに、左側の時刻表をわたしの体がおもいきり隠してしまっている。
あわてて移動し、がばっとうつむいた。
顔、上げらんない。



