「最初から、期待してんのは、おれのほう」
ぽろぽろ、悲しくもないのに勝手に涙がこぼれる。
それを全部受け止めてくれる怪獣くんを、もっともっと強くぎゅうっと抱きしめる。
「……カンナ」
名前を呼んでくれて、うれしい。
触れてくれた前髪は切れなくなったし、連絡がこないとすごくへこむよ。
「なあ、おれさ」
もう見ないふりなんてできない。
うんと前から、そんなの本当はできっこなかった。
わたし、ユウくんのことが、もうこんなにも、大好きだよ。
「あ……」
彼の肩越しに、雲がちぎれてのぞいた晴れ間。
なににもじゃまされない、大きな空にアーチを描くそれに、一瞬にして目を奪われた。
「ねえ、虹!」
思わず柵にむかって走り出す。
「ねえ見て、ユウくん、虹だよ、虹架かってるよ! すごい! 超きれい!」
「……あ、そ」
重たそうにのっそり歩き出したユウくんは、長い時間をかけてやっとわたしの隣に移動してきた。
「すごいねえ。こんなことあるんだねえ」
「あんたって、やっぱりちょっと頭弱いよな」
「え!?」
今朝から降り続けていた雨は、夜中まで上がることはないでしょうって、天気予報で言っていたのに。
予想外にやんだ雨のむこう側に、奇跡みたいに輝く七色。
「人の話は最後まできちんと聞けって小学校で習わなかった?」
「え? あ、そうだった、話の途中だったね、なんだっけ?」
「もういい」
「ええっ」
「知らね」
行ってしまう背中をドタバタ追いかける。
「ユウくん、待ってよ!」
追いついたら、ふり向いた顔が、とびきりいじわるに、だけど見たこともないほど優しく笑った。
「いやだ」
梅雨明けはきっと、もうすぐそこまでやって来ている。
fin.𓂃◌𓈒𓐍



