わけもわからずぼけっとしていたら、突然なにかが、ぼふんと顔面にぶつかってきた。
自力で座ることもままならなさそうな、へちゃけた、水色の、出っ歯の怪獣。
やっぱり超ぶさいく。
超、かわいい。
「……なんで、なに、これ」
「欲しかったんじゃないの」
だるそうに、ユウくんは言った。
「どこからなにを盗み聞きしてたのか知らねーけど」
わざわざ取ってくれたのってわたしが聞く前に、遮るように、普段は口数の少ないはずの先輩が口を開く。
「べつに、あんたが泣くような話ではなかったと思うけど」
「で、でも……だって、その気がないなら期待させないほうがいいって」
「それはあんたのことじゃない」
「え!?」
「クラスの女子の話をしてた」
怒涛の答え合わせに、ちょっと、頭がぜんぜん追っつかない。
「きのう、好きだって言われた。話したこともないのに」
「そ、それで……」
「てきとうに断った。でもぜんぜん、伝わってなかったっぽくて。無駄に期待させてた、らしい」
思わず、ぶさいくな水色の怪獣をぎゅうっと抱きしめる。
もふもふな手ざわりのむこう、限りなくちっちゃな胸のなかで、心臓がばくばく暴れている。
この心拍数の高ぶりは、きっと、たぶん、廊下をおもいきり走り抜けたせいじゃない。
「じゃあ……じゃあ、わたし……は、期待してもいいってこと……?」
どきどきしすぎて息が苦しいよ。
息が苦しくて、うまくしゃべれないよ。
「いいんじゃない?」
とても整ったかたち、薄いくちびるの左端がきゅっと上がる。
「ていうか」
一歩ずつこちらへ歩を進め、やがて足を止めたユウくんが、指先でそっと中途半端な長さの前髪に触れた。



