「心配しなくても……わたし、ユウくんのこと好きになったりしないよ。大丈夫だよ」
言いながら、まるで心がちぎれていくみたいに痛かった。
「……こう見えて、ちゃんと身の程はわきまえてるから」
「ぜんぜん、なにしゃべってるかわかんね」
短いため息。
面倒くさいって顔。
「“身の程”ってなに?」
はじめて会ったときと同じようで、まったく違うような、とても怒っている表情をユウくんは隠そうとしない。
「だからっ、ユウくんは漫画でいったらヒーローばりの男の子で、わたしはモブ女子その30くらいってことなの! ふたりは絶対に結ばれないってこと、言われなくてもちゃんとわかってるの! だから最初から期待もしないし、好きになったりもしな――」
「じゃあおれが『モブ男子その30』になれば、あんたはおれのこと好きになんの?」
今度はこっちが、なにを言われているのかぜんぜんわからない。
「来て」
じれったそうにくちびるを噛むと、簡単にわたしを追い越し、ユウくんは性急に階段を駆け上がった。
引っぱられている手首のおかげでわたしも自動的に後を追うかたちになる。
扉が開く。
雨上がりの湿ったにおいの風が、さわさわと全身を撫でては、去っていく。



