「……はっ、はあ、もーむり……」
勢いのみで階段を駆け上がったら心臓も脚も途中で力尽きた。
もうこれ以上は走れないどころか、歩くことさえできない気がする。
手すりに体重を乗せながら、ひとつひとつ階段を踏みしめて上っていると、いきなり、けっこうな力で手首をガシッと掴まれた。
「待てって」
「っユウく……」
「なんで泣いてんの」
言われてはじめて気がついた。
頬がびしゃびしゃに濡れている。
そういえば、視界もぐにゃぐにゃしている。
「あー……どっから聞いてた?」
「……っう……」
「カンナ」
いつも、あんた、って興味なさそうに呼ぶくせに。
これまでに一度も名前なんて呼ばなかったくせに。
どうしてきょうに限って、そういうことをするわけ。
「ちゃんと……わかってるよ」
ぐんぐんせまくなる喉を無理やり開いてしゃべった。
「べつに、期待してないもん。好きじゃないもん。だって、わかってるもん……」
わたしが立っている場所、その2段下にいる背の高いユウくんがちんちくりんな後輩を見上げ、眉をひそめる。
「なにをわかってんの?」
「ぜんぶ……」
「全部って?」
「ユウくんがカースト上位で、わたしが最下層だってこと」
意味がわからない、という顔をされる。
上位の人は、きっとあまりこういうことは感じないで、生きているんだろうね。
いいなあ。
わたしも、一度だけでいいからそっち側へ行ってみたいなあ。
こんなふうにためらいもせず、なんとも思っていないモブキャラの涙をそっと拭いて、心ぜんぶさらっていっちゃうような。
そういうまぶしい存在に、一瞬でいいから、なってみたかった。



