ユウくんの言うとおり、わたしってけっこうアタマヨワイ、かもしれないけど。
でも、いまのふたりの一連の会話を聞いて、意味が理解できないほど読解力がないわけじゃない。
それにこう見えて、いちばんの得意科目は現代文なんだ。
その気がないなら期待させないほうがいい、だって。
笑っちゃうね。
べつに最初から、期待なんかしてないのにね。
「……おれは、」
――がたん、と。
冗談みたいなタイミングでやってしまった。
隣にあったゴミ箱に気づかないで、おもいきり蹴っ飛ばしちゃうくらいには、動揺しているみたい。
本当に嫌になる。
期待なんかしてない、なんて強気なこと言っといて。
「あーもう……さいってい……」
どうして、こんなにも泣きそうになるの?
「……誰?」
半分だけ開いたドアの向こう側でわたしを捕まえたのは、あの温度のない、淡々とした声だった。
でも少しの警戒が伝わってくる。
徐々に大きくなる、教室の床を擦るスリッパの音。
だめ、このままじゃユウくんに見つかってしまう。
どうしよう、逃げなきゃ……!
「――カンナ!」
わたしの記憶によると、はじめて名前を呼ばれたと思うのだけど、違うかな。
それにしても、そういう大きな声も出せるんだね。
ぜんぜん、似合わないね。
涙をこらえるためにしょうもないことばかり頭のなかで唱えながら、とにかくもう、ふり返らないで走り続けた。



