わたしとぜんぜん違う、骨ばった指が離れてすぐ、ササッと前髪を直した。
きっとどうしようもなく赤くなっている顔を見られたくなかった。
「あんた、知ってる?」
重たい灰色に目を移した横顔が、なにか思い出したように、くだらなさそうに鼻を鳴らして笑った。
「『学校の屋上で一緒に虹を見たふたりは、幸せになれるんだって』」
彼が紡いだ言葉じゃなく、なんだか決められた台詞のような響き。
「知らない……なにそれ?」
「うちの学校のジンクス」
「そんなのあるの?」
「らしい」
自分から話題にしておきながら、興味なさそうにしゃべるのはいったいなんなんだろ。
「あんた、こういうの簡単に信じそうだなあと思って」
また、理科の実験を観察するようなまなざしを向けられた。
ユウくんはきっと理系の男の子だな。
なんとなくそう思う。
根拠はないけど。
これは感覚型の文系女子の直感。
「うん、信じる。そのジンクス、たぶんほんとだと思う」
言いきったわたしに、しんしんと冷えた感じの目が少しの熱をもち、興味深そうに小さく揺れた。
「なんで?」
やっぱりユウくんは理系で間違いないな。
結論に、絶対的な根拠とロジックを欲しがる。
「なかなかお目にかかれない貴重な虹を、なかなか来ないような屋上で、しかもふたりそろって見られてるんだよ? それってすごい確率じゃない? その時点でふたりは、運命に選ばれた、特別なふたりなんだよ」
くくっと、喉を鳴らして楽しそうに笑った。
「たしかに、そうかも」
「先輩、いまの説明は“解”になりえますか?」
「満点」
運命に選ばれた、特別なふたりのヒロインに、できればわたしもなってみたい。
モブ女子その30のわたしだからこそ、そういうシチュエーションくらいには恵まれてみたい。



