ユウくんはクラスメートの肩とドアの隙間を縫うようにしてこちら側に来ると、まさに寝起きといった感じのぼやっとした目を、ゆっくりとわたしに落とした。
「持ってきた?」
「えっ」
「着替え」
「あ、うん……」
持っていた紙袋ごと渡そうとしたのを、なぜか華麗にスルーされる。
そして彼はそのまま教室を覗きこみ、時計を確認すると、いきなりスタスタ歩き始めてしまったのだった。
「ちょ、え、なんで!?」
「ついて来いってことじゃん?」
親切な先輩が困ったように笑う。
よくわかんないやつでごめんね、という小声の台詞を聞いて、ユウくんはクラスメートからああいう素っ気なさをぜんぶ容認されているのだろうなと思った。
口数が少なくとも、目立った行動をしなくとも、一匹狼を貫いていても。
そこにいるだけでそのすべてを許され、認識されるような存在感みたいなものを持って生まれた人は、それだけでもう特別なんだ。
ユウくんは、わたしとは別の星のもとに生まれてきた人だ。
水色のネクタイの波のなか、だんだん遠ざかっていく背中にふり払われないように必死で追いかけた。
やがてのろのろと階段を上り始めた水色のスリッパ。
それが最上階に到達すると、なんのためらいもなく、ユウくんは古びたドアノブをまわした。
「屋上……?」
入学して1年ちょっと、一度も足を踏み入れたことのない場所だった。



