「だって、まだヤスくんにふられたばっかりなんだよ? ありえないよ……」
おとといの夜からきのうにかけて、流した何リットルもの涙は絶対に嘘じゃない。
ヤスくんのことそんなに簡単に忘れられない。
キスさえしなかった、どこまでもプラトニックな、全部わたしに合わせてくれた、はじめての彼氏。
「恋で傷ついた心は恋でしか治せないんだよ」
チョコミントを前歯でぽきんと折ったキョンが、当然のことをしゃべるトーンで言った。
「それに時間とか関係なくない? あたし、前のオトコにふられたその日のうちに、別の人とつきあったことあるけど」
「経験豊富なキョンといっしょにしないでー!!」
「バカだな。そうやって徐々に上げていくんだよ、経験値ってもんはさ」
レベルマックスまで上がりきった達人の言うことはさすが、チガウな。
わたしもキョンくらいまでのところへ到達したら、この必要以上にすーすーするチョコ味をおいしく食べられるようにもなるのだろうか。
「でも、ユウくんのそんな話聞いて……好きになんて、絶対なりたくないよ」
だって、キョン情報によれば、ユウくんのこと好きな人が何人かは確実にいるんだよね。
ユウくんはそれくらいの存在だということだよね。
少なくとも、恋愛においてわたしよりは格段に上位のカーストにいる、ということだよね。
「もう身の程知らずな恋はこりごり」
だから、好きになりたくない。
だって、傷つきたくない。
「わたしって男運がなさすぎる……」
「それは男運とは言わん」
キョンにはわからないよ。
わたしみたいなモブ女子その30は、傷つくときも、ひとりぼっちなの。
𓂃◌𓈒𓐍



