さっき思わず口にしたクリーニング代は、たぶん、ただの口実だった。
まぶしすぎるヘッドライトがどんどん近づいてくる。
「じゃあ」
バスが目の前に停車するのと当時に、ユウくんが言った。
「あ……」
どうしよう。
わたし、また会う理由を探している。
「……き、着替え!」
ドアのむこうへ乗りこみ、ふり返って、やっと見つかった単語を小さく叫んだ。
「あの……その、着替え、返しに行きたいから、ええと、ですね」
「4組」
「え?」
薄いくちびるの左端が、ほんの少しだけ上がった。
「3年4組」
それは、行ってもいい、ということですか?
「待ってる」
どうしても、ばいばいしたくなかった。
どうしても、また会いたいと思ってしまった。
走り出したバスのなか、席に座ることも忘れて、ジャージの首元をぎゅうっと抱きしめる。
シンプルなせっけんのにおい。
よけいなことは言わない、よけいなものは持たない、まさにユウくんのにおい。
「待ってる……だって」
変な、気持ち。
恥ずかしくて、うれしくて、泣きたくて、笑いたくて、切なくて、楽しくて。
向いてないからたいがいにしたほうがいい、と言われたばかりなのに。
まだそれにすら育ってもいない種が、雨の水分を吸いこんで膨らみつつあるのを、もう少しあいだ見ないふり、していよう。
見ないふり、していられるかな。
𓂃◌𓈒𓐍



