「こっから、どうやって帰んの?」
なんちゃってオールバックみたいな髪型をしたユウくんが、自身のスマホでバスの路線を調べながら問う。
「ええと、たぶんここからだといったん駅まで戻って……」
「親に迎えに来てもらったりできねーの」
「あ、そうだね、ちょっとお母さんに連絡してみる」
この時間だともうパートを終えて、夕食の準備もひと段落ついたくらいかな。
けっこうな雨だから迎えに来てくれるだろうと信じて電話したのに、返ってきたのはあんまりな答え。
「お父さんとお母さん、結婚記念日だからきょうはデートだって言っといたじゃない。カレンダーにも書いておいたけど確認しなかったの?」
そうだった。完全に忘れていた。
ヤスくんにふられたショックできのうはそれどころじゃなかったんだ。
「親、なんて?」
「うん、きょう結婚記念日でデートだから無理だって……。もうレストランにいるらしい」
「あー。どんまい」
何年たっても仲が良いのはけっこうなことだけれどね。
お兄ちゃんが生まれる2年前に入籍したというから、今年で結婚23年目になるのかな。
交際期間を含めるとたぶんもう25年くらいだ。
わたしもいつかそういう相手と出会いたいなって、お父さんとお母さんを見ているといつも憧れずにはいられない。
おじさん、おばさんになってもラブラブでいられるような。
そんなたったひとりが、世界のどこかでわたしを待ってくれているといいな。
「うち来れば?」
「へ?」
「さすがにその格好でバス乗せらんねー」
言われて自分の体に目を落とすと、シャツはかなりスケスケだし、スカートからはぽたぽたとしずくが落ち続けている。
髪も束になってしまうほど濡れている。
「ドライヤーと着替えくらいなら用意する」
わたしの返事を待たず、ユウくんは踵を返して豪雨のなかに戻り、スタスタと歩き始めてしまった。
どうやら彼の家は歩いてすぐの場所にあるらしい。



