その存在に気づいたのは、UFOキャッチャーをするために千円札を崩すのか、両替機の前で悩んでいたとき。
「ヤ、――」
3か月のうちに出来上がった習慣のせいで名前を言いかけ、あわてて両手で口を覆う。
最低な場面に出くわしてしまった。
ほかの女の子と楽しそうにプリクラの機械から出てくるところは、やっぱりちょっと見たくなかったな。
「なに?」
変にフリーズしたままのわたしを不審に思ったのか、ユウくんがぐいと腰をかがめる。
わたしの視線をたどっていく、同じ高さまで降りてきた目線。
視力のいい両の目は簡単にヤスくんを見つけたみたいだった。
そして同時に――ヤスくんのほうも。
元彼氏の目線が最初にとらえたのはわたしじゃなく、刺すように自分を見てくるユウくんのほうだったらしい。
ふたりは無言で見つめあっていた。ほんの数秒。
でもわたしにとっては、もはや永遠とも思える長さ。
同性にも優しいのが基本スタンスのヤスくんが、めずらしく怪訝そうに眉をひそめた。
そしてゆっくり、スローモーションなスピードで、わたしに視線を映したのだった。
ぱあっと、表情が一瞬にして明るくなる。
「あ!」
どうしてそういう顔をするの。
そんな、うれしそうに笑うの。
だってわたしたち、きのう、別れたんだよね?
「カンナちゃん?」
苺ミルクみたいに甘ったるい声。
はじめてしゃべったときからきのうまで、ずっとそう思っていた。
その声に名前を呼んでもらうのが好きだったよ。
それだけで、世界一幸せな女の子になれる気がしたから。



