だけどその理由をしゃべったら、ウザってまた冷たい目をされちゃうかな。
「2つ上の先輩に、好きな人がいて。どうしても同じ高校に入りたくて」
ユウくんはまったく相槌を打たない男の子だ。
それどころか、聞いているのか聞いていないのかさえわからない感じの、ふわふわとした空気感。
だけどいまはそれが心地よかった。
なんというか、ちょっと違うかもしれないのだけど、SNSにひとりごとを書きなぐる感じにすごく似ていて。
「でもさ、そんな死ぬ気で勉強したのに、いざ入学してみたら当たり前に彼女さんがいたんだけどね! 告白する前にふられちゃった」
「誰?」
「サッカー部の槙原先輩。知ってるかな」
知らねってふうにコテンを首をかしげる。
嘘だあ。
槙原先輩といえばサッカー部のエースだったし、頭もよく、塩顔イケメンだったから、高校でもかなり有名だったはず。
卒業式なんかもたくさんの人に囲まれていて、ほぼ面識のない後輩はオメデトウゴザイマスの一言すら届けることができなかったくらいだ。
「面食い?」
ユウくんは簡単に、だけどちょっと嘲笑するみたいに訊ねた。
槙原先輩のことを少し思い出したみたい。
「……顔、じゃないもん」
「でもさっきのやつも整ってただろ」
きっとヤスくんのことを言われている。
片側2車線ずつの国道を挟んだ、反対側の歩道の顔が鮮明に見えるなんて、長い前髪にほとんど隠されているその瞳はかなり視力がいいね。
「たしかに……ふたりともかっこいいけど、好きになったのは顔じゃないもん」
「へえ」
くそう、信じてないな。
「ほんとだよ!」
ふたりとも性格、
とりわけ、やさしいところを好きになったんだ。
ヤスくんは、段差でずっこけた最高にださいわたしを受け止め、笑いかけてくれた。
槙原先輩は、職員室にたどり着けなくて迷子になっていた新入生のわたしに、面倒くさがらずに道案内してくれた。
しゃべったこともない、名前も知らない後輩だったのに。
たったそれだけで、と笑われるかもしれないけど。
それでも胸が震えたの。
漫画の主人公みたいに輝いた存在が、こんな脇役みたいな女子にも優しくしてくれるなんて、奇跡みたいなことだと思ったの。



